7月2日、米国・カリフォルニア州サンフランシスコのカストロ地区で、ガスバーナーを手にした男が観光客に因縁をつけ、襲いかかるという事件が発生した。
現場に居合わせた人々はすぐさま警察に通報するも、興奮した様子の男は暴力の手を緩めない。このままでは危険だ、早く何とかしなければ…そのとき、身を挺して悪漢の目の前に飛び出したのは、2名の全裸中年男性であった。
複数の報道によると、文字通りの丸腰で男に立ち向かったのは、カリフォルニア州サンノゼ在住のピート・スフェラさんと、サンフランシスコ在住のロイド・フィッシュバックさん(共に年齢非公開)。ヌーディストである2人は、その日も全裸でカストロ地区を散歩していたところ、事件に遭遇した。
なお、カストロ地区は「ゲイの首都」と言われるほどLGBTに好意的な土地として知られ、街にはゲイバーやアダルトショップ、LGBT団体の事務所などが集中し、世界中から観光客が訪れている。街を歩けば、ヌーディストに遭遇することも珍しくないという。
では、公の場で全裸になることが法的に認められているのかというと、そこには一応の線引きがある。2012年に制定された条例によると、公共の場で性器や肛門を露出させることが禁じられているが、例外として、
・市の許可を得たパレードや催事
・プライベートビーチ
・その他私有地
などでは許可されるという。局部さえ見えなければいいということで、街を歩くヌーディストたちは局部を葉っぱや布などで器用に隠している。裏を返せば、2012年までは公共の場での下半身露出が規制されていなかったことになり、そのため「全裸を取り戻せ」といった抗議活動も頻繁に行われている。
話は戻るが、観光客を救った2人組のうち、暴れる男に殴りかかったのはフィッシュバックさんだった。相棒のスフェラさんによると「普段のロイドは、物静かで礼儀正しい男」らしいが、そのときばかりは何かに突き動かされたように飛び出していったという。
なお、目撃者の1人が撮影したとされる動画が、SNS上で拡散されている。
見事な右フックである。なお、ロイドさんは今回の事件について、プライバシーを重んじるヌーディストらしくノーコメントを貫いている。
また、サンフランシスコ市警の発表によると、観光客に襲いかかった男はゼロ・トリボール容疑者(38)。トリボール容疑者は、近隣の商店街では名の知られたトラブルメーカーで、長年にわたり迷惑行為を繰り返していたという。自立支援施設の職員が保護を申し出たこともあるが、「施設に火をつけ、責任者をぶっ殺す」などと威嚇してきたとのことである。
「観光客に嫌な思いをしてほしくない」と語るスフェラさんは、世界的に有名なこのLGBTタウンで、全裸露出を根づかせたいと考えているが、反発にも遭っているという。
「我々は何年間もこの姿で生活し、自分たちが普通の人間であることをアピールしてきました。ただ、何を着るべきかという点において、多少おおらかな考えを持っているだけ。我々はただ、地域社会に貢献する善き隣人として見られたいだけなのです」(スフェラさん)
一般的な常識から考えると理解しがたいが、彼らが身を挺して人命救助を行ったのは事実。服は着ずとも心は錦、と評価するべきではないだろうか。